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地域自律型マイクログリッド研究会の設立趣意書

   ~ 電力系統との協調による脱炭素化と分散化の実現 ~

1.地域自律型マイクログリッド研究会設立の背景と目的

政府は,現在2030年の日本の電源構成などを示す「2018年エネルギー基本計画」の見直しを進めており,再生可能エネルギーを主力電源とし,省エネや水素の利活用を,再エネ,火力,原子力に続く第4のエネルギー源と位置付けている。しかし,具体的な電源構成比率については,見直し後も再生可能エネルギー比率を22~24%,火力発電比率を56%,原子力発電比率を20〜22%というこれまでの大枠を維持することになっている。

原発の構成目標を達成するには30基以上の原発の稼働は必要であり,再稼働の推進,炉の新増設あるいは運転期間40年ルールの見直しなどがおこなわれなければ実現は容易ではない。火力発電として期待が大きい石炭火力に関しては,欧米の大手金融機関が投融資しない方針を表明しており,国内金融機関もこれに追従する構えである(図1)。広域に系統を運用し,遠方の再生可能エネルギーによる電力を需要地域に送電するには,地域間の連系線の増強と周波数変換所の容量増加が必要であるが,これには,数年から10年の建設期間を要する。また,送配電線の空き容量がないことで,一般電気事業者は,再生可能エネルギー発電の接続制限や出力抑制を行っており(図2),これらの解決が緊急の課題である。

エネルギー基本計画では,電力・ガスシステム改革等を通じて,産業ごとに存在していたエネルギー市場の垣根を取り払うことで,既存のエネルギー事業者の相互参入や異業種からの新規参入,さらに地域単位でエネルギー需給管理サービスを行う自治体や非営利法人等がエネルギー供給構造に自由に参加することが期待されるとしている。こうした多様な主体が,様々なエネルギー源を供給することができるようになることで,エネルギー市場における競争が活性化し,エネルギー産業の効率化が促進されていくことになる。それが,地域に新たな産業を創出するなど,地域活性化に大きく貢献することなどが期待されるため,それを実現するための新たな地域主導のエネルギー供給方式の確立が求められている。

さらに,再生可能エネルギーの導入促進に大きな効果を上げたFIT制度も,価格が市場価格に近づき,これまでのような大きな利益は期待できず,また,2009年に余剰売電を開始した業者や設置者の買取期間(10年,10kW未満,平均3.8kW)が終わり,その世帯数は50万件以上あり,それを活用できる仕組みを作り上げることも必要である。

世界では,さらに大きな電力・エネルギー需給の構造的変化が起きつつあり,太陽光や風力などの再生可能エネルギーが化石燃料に取って代わる「脱炭素化」と中小規模の分散型電源を蓄電池などと組み合わせ,効率よく地産地消する「分散化」が主流となっている。

 

そこで,ここでは、我が国のエネルギーインフラストラクチャーの脱炭素化と分散化を実現するために、地域に再生可能エネルギーの大量導入が可能で基幹系統と協調して運用できる地域自律型マイクログリッドに関する有識者及びエネルギー関連事業者からなる「コンソーシアム地域自律マイクログリッド研究会」(会則は別紙に記載)を設立し,その開発、提案,実証,事業化を目指すものである。

2.地域自律型マイクログリッドの特徴

地域あるいは地方自治体主導の電力インフラの開発にあっては,大規模で高価なネットワークを一度に作るのではなく,地域特性に合わせた適正規模の自律供給グリッド(クラスターと呼ばれることもある)を作り必要に応じて随時,供給グリッドを増設することが効率的かつ経済的である。その供給グリッドを相互間に連結することにより,順次規模を拡張し,安定した電力供給インフラを形成してゆくのが地域自律型マイクログリッドであり,以下のような特徴を持っている

  • 電力システム全体が,大規模電源と長距離送電網から構成される基幹グリッドと需要家に近い地域自律グリッドとの二層構造と考えるなら,需要家に近い地域自律グリッドの一形態であり,地域あるいは地方自治体が主導して構築することになる。

  • 従来マイクログリッドが,電力系統に常時連系し電力の授受を得ることを前提とした方式(寄生型)であるのとは異なり,提案する方式は,常時,自律運転を行う方式(供給グリッド内の電圧及び周波数の制御機能をもつ自律型)という利点をもっている。

  • 地域自律型グリッドでは,再生可能エネルギーを中心とする分散型電源,コジェネレーション,エネルギー貯蔵装置及び需要家から成り,それらをエネルギー管理システム(EMS)により,安定的また経済的に運用される(表1、図3)。

  • エネルギー管理システム(EMS)に用いる計測量は,クラスター周波数,端子電圧及び蓄電池充の充電力残量(SOC)であり,高価な情報通信システムは必要としない。

  • 地域需要の増加に従い,随時,供給グリッドを増設することで,建設投資の効率化が図れ,また,複数グリッド間を相互連系することで,拡張型マイクログリッドとして地域インフラを形成できる(図4)。相互連系により,供給グリッド間のエネルギーの過不足の融通が行え,分散型電源や蓄電池等の容量の小型化や稼働率の向上が図れる(図5)。

  • 平常時,複数の自律型グリッドは基幹グリッドと疎結合 (Loose Coupling)し,必要に応じて電力の供給(緊急時バックアップ)を受けるが,グリッド内で,自律的に電力需給運用,電圧及び周波数制御を行うため,上位系への逆潮流はなく,電力系統からの運用管理の範囲外となり,系統運用の負担が軽減される。

  • 上位基幹グリッドに何らかの支障事故が発生した場合には,地域自律型グリッドは,基幹グリッドから連系を絶ち,自律運転へ移行し,また上位基幹グリッドがトラブルから回復したら再び連系運転に復帰でき,地域に自律性,環境性,防災性,経済性における便益をもたらす(図6)。

 

3.地域自律型マイクログリッドの展開

2011年の自然災害に起因する大規模な電力不足を経験したことにより,家庭,事務所,工場,地方自治体は,再生可能エネルギー等を活用した自前の電源を確保しておくことの必要性を痛感した。その後,再生可能エネルギー導入推進のためのFIT 等の法案が成立したが,太陽光や風力発電等の再生可能エネルギーを導入すると,それらの出力変動により電力品質(周波数,電圧)が悪化することが懸念され,接続された再生可能エネルギー発電電力が上位系への逆潮流として流れ込み,系統運用に支障をきたす。

地域自律型マイクログリドは,供給グリッド内の電圧と周波数を自律的に制御でき,逆潮流を起こさない運用方式であるため,電力会社が抱える課題を解決できる。 

ここで展開する地域自律型マイクログリドは,再生可能エネルギー大量導入を可能にすると同時に,災害に強いエネルギー社会インフラとして防災拠点としても機能することができる。特に地域自治体が主体となる地産地消型電力供給システムの開発においては,大規模で高価なネットワークを一度に作るのではなく,対象地域の特性に合わせた適正規模の供給グリッドを作り,必要に応じて随時のグリッドを増設するため投資効率が高く,また,投資計画の変更が容易であることから投資リスクが軽減される。さらに供給グリッドを相互間連結し,電力の過不足融通をすることが可能となるため,設備利用率の向上と設備容量の軽減が図れ,従来のマイクログリッドに比べコストが低減できる。

ここで提案する地域自律型マイクログリッドは,地域,地方自治体のエネルギー供給方式のみならず電力会社,ガス小売り事業者並びに新電力が,自地域内の再生可能エネルギーを最大限に活用した新たなエネルギー供給方式の一形態となりうる。再生可能エネルギー大量導入に伴う,電圧問題,周波数変動,逆潮流問題が解決され,連系拒否や出力抑制が回避されることから,再生可能エネルギー設置者と一般電気事業者の双方にとっての利益をもたらすものである。

 

このような地域や地域自治体所有の「ご当地発電所」を中心に,行政機関,病院,警察,学校,避難所,通信基地,高齢者住宅を完備すれば,自然災害時のライフライン(電気,給湯,飲料水,通信)確保が可能な耐災害型グリッドとなる。このような災害にも耐えうる能力は「Resiliency:回復力」とよばれ,今後の社会インフラ構築の指針となり,この考えは,今進められている東北の被災地の復興にも活用されるとともに,途上国の過疎地,島嶼あるいは無電化地域へのエネルギー供給にも貢献できる。

本研究会における調査研究活動は,以下のように展開してゆくことを予定している。

・地域自律型マイクログリッドの構築に必要な基礎技術の整理と実用化レベルの把握

・地域自律型マイクログリッドの構築時に対応すべき法的規制や接続要件の明確化

・適用可能な地域及び地方自治体の調査と選定

・選定された地域の地域特性(需要家構成,再エネ利用可能量,面積,諸制約)の調査

・対象地域を適正規模の供給グリッド(クラスター)に分割し,導入設備構成を決定

・年間(複数年)にわたるエネルギー需給のためのエネルギー管理システム(EMS)の設計

・複数供給グリッドを相互連系した時の過不足融通や設備利用率改善効果の評価

・一般電気事業者にとっての逆潮流の回避や運用管理範囲の縮小による利便の評価

・一般電気事業者内への再生可能エネルギー導入率向上によるCO2排出削減効果の評価

・建設費,燃料費,設備補修費,人件費等の諸経費を勘案した採算性と事業性評価

・CO2排出量削減,雇用創出,地域内資金循環などの地域活性化の定量的評価

 

4.本年度の調査研究項目

このような地域自律型マイクログリッドの実証と事業化に向けて,本年度は,以下の研究項目をとりあげ,研究会にて論議する。

・地域自律型マイクログリッド構築に必要となる基礎技術と技術課題の整理

・再生可能エネルギー及び分散型電源の普及に伴う技術課題と新たなソリューションの実証事例調査

・ハイブリッド(複数の再生可能エネルギー利用)型地域供給グリッドの実証事例調査

・地域自律型マイクログリッドにおけるコジェネレーションによる電熱供給の調査

・再生可能エネルギー大量導入時のマイクログリッドの慣性力確保の対策の調査

 

5.研究会の運営

 本コンソーシアム「地域自律型マイクログリッド研究会」の目的を達成するために,年5回程度の研究会,講演会を開催し,会員への情報提供及び相互の意見交換の場を提供する。また,必要に応じて,内外の関連エネルギー施設や実証プロジェクトサイトの調査、視察,見学会を開催する。

研究会成果として,調査研究及び講演議事録をまとめた報告書を会員に配布する。

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